グルタミン酸仮説とは?
脳内には、ニューロンと呼ばれる神経細胞がシナプスを介して繋がっていて、電子回路のようなネットワークをつくって情報を伝達しています。
しかしながら、人間の脳は電子回路と大きく異なり、ニューロン同士を繋ぐシナプスが、経験や学習によって変化して行きます。これは「シナプスの可塑性」と言われ、記憶や学習によって情報伝達物質の通りが良くなったり、よく使われる記憶を蓄え、必要のない記憶は消去するなど、情報の整理も行われます。
新しい経験や学習によって脳は活性化されますが、そのしくみは、刺激が加わると伝達物質であるグルタミン酸の放出量が増加し、接点となる受容体(N-メチル-D-アスパラギン酸型受容体)も増強されると考えられています。つまり、初めての経験や苦い失敗など、際立った刺激があるとシナプス同士の繋がりが強固となり、脳内の情報伝達能力が向上するのです。
でも、受容体への刺激が弱過ぎたり、過剰になり過ぎるとシナプスに問題が生じます。
グルタミン酸が不足して刺激が伝わりにくくなると、シナプス自体が弱体化し、統合失調症の原因になると考えられています。
また、NMDA受容体への刺激が強過ぎる(連続して刺激を与え過ぎる)と、神経細胞が刺激に耐えられなくなり、細胞自体が死を選ぶことが知られています。
これは「グルタミン酸の興奮毒性」と呼ばれ、アルツハイマー病は、NMDA受容体への刺激が強すぎて神経細胞が死滅するという仮説があります。NMDA受容体への刺激が適正にコントロールされないと、脳は大きなダメージを受けることになるのです。
グルタミン酸を遮断すると精神異常が発現するって? じゃ~どうする⁉
今回の「絵とゴロで楽しく覚えるクスリの名前」は、アルツハイマー型認知症薬のアリセプト、レミニール、リバスタッチパッチ/イクセロンパッチ、メマリーです。この中で唯一、メマリーはグルタミン酸仮説に基づくNMDA受容体拮抗薬ですが、グルタミン酸そのものを跳ね返す(競合する)クスリではありません。
NMDA受容体は中枢性の過敏化に深く関わっているので、情報伝達物質であるグルタミン酸と競合(または遮断)するクスリだと、生理学的なNMDA受容体の機能を損ない、記憶の障害・精神異常の発現・失調などの多くの副作用を引き起し、臨床の使用には適しません。
そのためメマリーは、グルタミン酸そのものを遮断するのではなく、受容体が活性化された後のカルシウムチャネルを遮断することで、不要な刺激を跳ね返すのです。
でも、難しいグルタミン酸仮説やクスリの名前をいくら覚えても、メマリーが使われるのは中等度から高度の認知症になっている時です。もし、私が服用することになったら、こんな作用機序を覚えている訳がないですよね。むなしい限りです。よ~し、絵をかなり過激なものにして、何とか覚えておくか…
今回覚えるクスリはこれだ!
認知症薬は2つのグループに分けられます。アリセプト、レミニール、リバスタッチパッチ/イクセロンパッチは、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬に分類され、効果などはある程度共通した特徴を持ちます。レビー小体型認知症への適応はアリセプトのみとなっています。
一方、メマリーはNMDA受容体拮抗薬で、上記3剤とは異なる働きを持ちます。そのため、複数のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬を同時に使用することはできませんが、メマリーは、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬のうち1剤と併用して用いることが可能です。
代表的な副作用として、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬では、下痢や嘔気などの消化器症状や、興奮などの精神症状があります。
貼付剤であるリバスタッチパッチ/イクセロンパッチでは貼付部位のかゆみや発赤などの皮膚症状がみられることがあり、メマリーは、めまいやそれに伴うふらつきが出現することがあります。
今回でアルツハイマーについては一区切りといたします。
これまで投稿したアルツハイマー関連記事は下記のとおりです。
新薬アデュカヌマブ(アデュヘルム)や悲願アルツハイマー経口ワクチンの可能性など、アルツハイマーの原因療法に迫る夢のある話題を取り上げてきました。でも今回投稿の4つのクスリは、症状の進行を遅らせるだけのクスリで、対症療法に値するかどうかも分かりません。テンション、だだ下がりの状態ですが気を取り直して覚えましょうね!
第一弾 話題沸騰の「アデュカヌマブ」を冷ややかな目線で検証した結果は⁉
第二弾【今さら聞けないアルツハイマー病】これを読めば、もう大丈夫かも?
第三弾 アルツハイマーの経口ワクチン?これを読めば話について行けるはず!
第四弾 日本人が信じてきたアルミと銅のウソ八百!今も信者はウヨウヨいるよ!
第五弾 グルタミン酸仮説?知って損は無いけど病気になれば全て忘れてるよ!
くすりのレビュー、国家試験の勉強に役立つYouTube動画
yakulab info 下田武先生
アリセプト(ドネペジル塩酸塩):15分42秒
メマリー(メマンチン塩酸塩):17分10秒
コメント