【今さら聞けないアルツハイマー病】これを読めば、もう大丈夫かも?

考えよう精神神経科

多くの患者さんが、「認知症」と「アルツハイマー」は同じ言葉だと思っているかも知れません。相談の内容によっては、認知症全体の3分の2が「アルツハイマー型認知症」で、残りの3分の1が「脳血管障害型認知症」と「レビー小体型認知症」であることを丁寧に説明する必要があるかと思います。

また、未だに「アルミ鍋を使っているとアルツハイマーになる」と思い込んでいる患者さんも多いようです。医療従事者として、アルツハイマー型認知症について多少の説明ができるよう、今回は、「アルツハイマーの知ったかぶりっ子になろう」をテーマに投稿しています。

前回投稿の宿題はどうなったの?

前回は、超~高額な「アデュカヌマブ」(モノクローナル抗体)に代わり、もっと値段の安い「メッセンジャーRNAワクチンで、アミロイドβを除去できるじゃねぇ?」などと、大それた投稿をしてしまいました。でも大丈夫。世界中の研究者は、その程度のことは既にお見通しで、トットと先に進んでいるようです。
という訳で、今回は、アルツハイマー型認知症に関する神経科学の新常識を私なりに整理し、それらを踏まえたうえで、次回、宿題の答えを導き出したいと思います。 あきれた言い訳だなぁ

考えよう

 

「アミロイドβ仮説」をもう少し深堀りすると

前回投稿の(一般向けの)挿絵は、アミロイドβが神経細胞の外側に大きく描かれており、あたかもその塊が神経細胞を押しつぶすような印象を与えていますが、実はそうではありません。

02深堀

神経細胞には情報を受け取る「樹状突起」と、次の細胞に情報を受け渡す「軸索突起」という二種類の突起があり、赤で囲まれている中継点が「シナプス」と呼ばれます。シナプスでは、グルタミン酸のような神経伝達物質が放出されますが、同時に、アミロイドβという小さなペプチドも放出されます。

アミロイドβは、脳内で作られた蛋白質(生命活動に必要なもの)がセクレターゼ酵素(α、β、γの3種類のハサミ)により切断されたもので、40個前後のアミノ酸(ペプチド)からできています。切断される時の微妙な切れ目の差で、無害で排出されやすいものと、毒性が強く、蛋白質同士が互いにくっついて脳に溜まりやすいもの(アミロイドβ 42)に分かれます。
 先にβのハサミが入ると、ひっつきやすい「アミロイドβ 42」ができるんだってサ

セクレターゼ酵素

本来、アミロイドβは、脳の清掃細胞である「ミクログリア細胞」(脳の常在免疫細胞)によって貪食され、除去されますが、アミロイドβが2~30個くっついたアミロイドプラーク(アミロイドβ・オリゴマー)が数珠繋がりになってしまうと、ミクログリア細胞がギブアップしてしまいます。

すると、ミクログリア細胞は、超活性化(暴走)状態となり、炎症や細胞へのダメージを引き起こす物質(サイトカインや蛋白質分解酵素、活性酸素類)を放出するようになります。

04もつれ

その弊害として、微小管(神経伝達物質等が通るレール)の枕木のように整然と並んでいるタウ蛋白がリン酸化され、「もつれ」と呼ばれる状態になってしまいます。結果、神経原線維の変化が起こり、ニューロンを内側から傷つけてしまうのです。
まさに家庭内暴力だなぁ!

20世紀の初め、ドイツの医学者アルツハイマー博士は、妄想や記憶障害のあった女性の脳組織を顕微鏡で調べ、脳の萎縮や、脳内のシミのような物(老人斑)、脳神経の中に糸くずのもつれのような物(神経原線維変化)を発見していました。

現代の神経科学によって、博士が発見したものが何なのか?どのような過程でそうなるのかを分子レベルで説明できるようになりましたが、効果的な予防法や治療法は未だに確立されていません。「アデュカヌマブ」を用いても、発病してしまった患者を治せないことは前回投稿したとおりです。
えっ~、100年経っても治療薬ができてないの? 「人生100年時代」も考えものだなぁ~

ここまでの説明が「アミロイドβ仮説の知ったかぶりです。ぜひ覚えて、いざというときに説明できるようにしてくださいね。

え~、アルツハイマー病と糖尿病はリンクしてたの?

2型糖尿病においては、インスリンを造る膵臓のβ細胞の周りアミリン(Amylin=IAPP 膵島アミロイドポリペプチド)という物質が蓄積し、やがてアミリンがミトコンドリア内へ侵入したり、細胞のアポトーシススイッチを押してしまうことが報告されています。アミロイドポリペプチドが病気の引き金になるという点で、アルツハイマー病と糖尿病の発生機序が似ていると言われています。

また、インスリン分解酵素(正確にはネプリライシンという酵素を補佐する)が、脳内のアミロイドβも分解する(ただし、単量体のアミロイドβだけ)ことが分かっています。当然、糖尿病によりインスリン抵抗性が増すと、一度に多くのインスリンが放出されるため、インスリン分解酵素も多く消費されてしまいます。結果、アミロイドβの分解がおろそかになるのではないかとも考えられているのです。

05インスリン分解酵素

え~、睡眠不足がアルツハイマー病を誘発するってホント?

免疫細胞はもとより大きな蛋白質などは血液脳関門を通過できないので、脳内には常在性の免疫細胞であるミクログリア細胞が存在しています。ミクログリア細胞は、脳脊髄液に乗って脳内を循環し、シナプスに蓄積したアミロイドプラーク(アミロイドβ・オリゴマー)を分解・代謝しています。睡眠時間とミクログリア細胞の関係について詳しくは分かっていませんが、一晩眠らないとアミロイドβが急激に増加することが分かっています。

その理由として、シナプスの活動が弱まる徐波深睡眠(SWDS)の間に、ミクログリア細胞によるアミロイドβの大掃除が始まるようですが、浅い眠りだと、シナプスを行きかう神経伝達物質が邪魔をして、大掃除ができないからだと言われています。深い睡眠時は、「ミクログリア細胞が、まるで道路の夜間清掃のように、車の往来を気にせず効率よく洗浄作業ができる?」というイメージでしょうか?
そういえばウチの婆ちゃん、ハルシオンの常習者だったが、年の割にはボケなかったよなぁ~

06睡眠時間

07清掃中

え~、根本治療よりも、予防医療の方が重要なの?

アミロイドプラークが蓄積し、発病の限界点に至るまでには、少なくても15~20年かかると考えられ、その後、①から④の順で具体的な症状が現れてきます。

08脳ダメージ

細胞死は、記憶と関係の深い海馬から始まります。ここが侵されると新しいことが覚えられなくなります。
側頭葉に細胞死が達すると、少し前の出来事を丸ごと忘れる(高度な物忘れ)ようになります。さらに進行すると、失認(顔なじみの人を知らない人と思う)、失行(いつもやっている歯磨き等ができなくなる)、失語(聞いたことに正しく答えられなくなる)を引き起こしてきます。
頭頂葉に細胞死が達すると、計画的に物事を実行できなくなります。また、見当識に障害が現れ、季節、時間、場所、人物(関係)などがわからなくなります。
最終的には、人格を形成する前頭葉にまで細胞死が達します。判断力に障害が起こり、道筋を立てて思考ができず、予想外のことに対処できなくなります。自発性が低下し、着替えをする等の順を追った行動ができなくなります

残念ながら①~④のように「こびりついた汚れ」が脳全体に広がってしまうと、それを削ぎ落すことが極めて困難であることがお解りいただけるかと思います。その理由として、アミロイドβを貪食できる「頼りのミクログリア細胞」が暴走状態となり、身内のニューロンを壊し続けること(もはや家庭内暴力状態)。また、弱いながらも(アミロイドβの単量体しか分解できない)「助っ人のインスリン分解酵素」は、血糖値維持が忙しくなると、糖代謝に駆けつけてしまうこと(労働者不足)。等々が挙げられます。

つまり、もっと早い段階で、両者に代わって、アミロイドβを除去してくれる頼もしい外人部隊を投入しなければアルツハイマー病に太刀打ちできないということです。こうしたことから、根本治療ではなく予防医療に役立ちそうなものが続々と登場しているようです。

まとめ

まとめ

繰り返しになりますが、アルツハイマー病の根本的な治療法は、発見以来100年経ってもできていないし、当面、根本治療を目指すことは合理的ではないと思います。

結論としては、「なるべく早期に診断し、早期に介入すること」が重要な柱となりますので、わが国の健康保険制度が「未病対策」にどれだけ介入できるかがカギになります。

タミフルの予防的服用(保険適用外)とは次元が違う話ですが、正直な話、「アレもコレも保険適用にして安くしてよ」ということなので、スタート時点で検査代とクスリ代が安価で、大勢の人が広く、短時間で受けられる医療サービスでないと社会に定着できないと思われます。

「アデュカヌマブ」が一般市民に適した予防医療になるとは思えませんが、IP(免疫沈降)-MS(質量分析)法による安価な血液検査は、広く受け入れられると思われます。安い検査法が整ったのですから、次は予防薬の番です。
検査で判っても、予防薬が無ければ、検査する意味が無いしょ!

最近、脳由来神経栄養BDNF遺伝子や天然由来の抗酸化物質チロソールなどの研究が目につきますが、はたして「安く、早く、広く」に繋がるのでしょうか? 切り札は、やっぱりワクチンだと思うのですが…。
この続きは次回投稿で。

 

 

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