ピロリ菌除去になぜPPIが必要で、なぜ二種類もの抗菌薬を飲むの?

抗生剤の覚え方 消化器科

ピロリ菌の除去に際して「なぜ多くのクスリが必要なのか?」とよく聞かれますが、
「そりぁ~ね、胃酸にも負けない手ごわい菌ですから、たくさんのクスリで一気に叩くんですよ」と答えれば、それなりに納得して頂き、難解な説明は不要だと思うのですが・・・。

 

少々学問的に説明をしますと、
「プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、胃酸を薄め(Ph5程度の中性に近い状態にし)、抗菌薬が働きやすい環境をつくります。一方、胃酸と共存していたピロリ菌の従来環境を急激に変えることで、ピロリ菌の防御能力を低下させ、菌が抗菌薬に攻撃され易くなるとも言われています。」

 

「また、ピロリ菌は耐性を獲得しやすい菌であることから、2剤を併用することで確実に菌を殺し、耐性菌を発生させないようにしているのです。」というところでしょうか?

 

ピロリ菌の除菌治療って、どうするの?

前回投稿は「ピロリ菌の検査」についてでしたが、今回は「ピロリ菌の除菌治療」についての投稿です。

ピロリ菌の除菌治療は下記のとおりで、「胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)」「2種類の抗生物質(アモキシシリン、クラリスロマイシン)」を7日間服用します。
近年は、クラリスロマイシンが効かない耐性菌が増えていることが問題となっています。

 

抗菌薬一覧

 

パック製剤

 

1回目で除菌できない場合は、保険適用で二次除菌を行います。
一次除菌で用いたクラリスロマイシンに変えてメトロニダゾール(フラジールⓇ)を用いますが、このクスリはアルデヒド脱水素酵素を阻害してアセトアルデヒドの分解能を弱めますので、お酒を飲むと、いわゆる「下戸の人」になってしまいます。強い吐き気、頭痛、心臓のドキドキ、顔が赤くなるなどの「悪酔い症状」が発現する可能性がありますので注意しなければなりません。

 

2回の療法で約97%の人が除菌に成功すると言われていますが、除菌できたかを確認するため、服薬終了から4週間以降に「尿素呼気試験」を実施して除菌判定を行います。なお、二次除菌に失敗した場合の三次除菌(メトロニダゾールに変えてシタフロキサシン)は、保険適用外となり自費での治療となります。
また、除菌後の再感染はまれで、除菌後の再陽性は年0~2%で推移すると言われています。

 

ピロリ菌除去に用いる抗生物質の覚え方はこれだ!

 

抗生剤の覚え方

 

外科医の仕事を奪ったPPIって何者?

胃酸の分泌を強力に抑制するプロトンポンプ阻害薬(PPI)は、逆流性食道炎や消化性潰瘍、NSAIDs服用時の潰瘍防止など、消化器科の治療には欠かせない存在です。このクスリの登場により胃・十二指腸潰瘍の手術件数が著しく減少し、外科医の仕事が一部奪われたとも言われています。

 

「PPI(~プラゾール)」の骨格はベンゾイミダゾール環で、その側鎖の違いから第1世代がオメプラゾールとランソプラゾール、第2世代がラベプラゾールとエソメプラゾールと言われています。日本人にはCYP2C19による代謝活性が高い人と低い人がいて、そのことでPPIの効果にバラツキがありましたが、第2世代ではバラツキが少なくなりました。

 

ところが、2015年には全く作用機序の異なる「PPI(ボノプラザン)」が登場して、従来の「PPI(~プラゾール)」が以前ほど重要ではなくなってきています。「PPI(ボノプラザン)」は、P-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)と呼ばれ、プロトンポンプが吸引するカリウムイオンと競合することで、胃酸の生成をブロックします。
また、CYP2C19による代謝の影響をほとんど受けないことから効果のバラツキが極めて少なくなりました。

 

従って、ボノプラザンは「PPIの第3世代薬」とは言えない、全く別のクスリなのです。PPIという屋根の下に、全く性質の異なる住人が暮らしていますので、その違いを押さえておくことは重要です。

 

PPI(ボノプラザン)が従来のPPI(~プラゾール)に比べて優れている点は?

 

ボノプラザンの優れた点

 

従来PPI(~プラゾール)は酸に弱く、胃の壁細胞にあるプロトンポンプに到達する前に酸に出合わないよう腸溶コーティングが施されています。そのため効果の立ち上がりが、ボノプラザンより遅くなります。
また、すりつぶすことができないので、胃瘻やチューブからの投薬が困難となりますが、ボノプラザンはそれができます。

 

プロトンポンプは1日に約1/4が新品と入れ替わり、古いものが壊されて、新しいプロトンポンプが胃壁細胞に出てきます。従来のPPI(~プラゾール)は、古く壊されたプロトンポンプにも強く結合していて薬剤が枯渇した状態で、新生のプロトンポンプには対応できず、夜間になると酸が出てしまいます。
一方、ボノプラザンは、1日中、血中に薬剤が存在しており、夜間に新たに作られたプロトンポンプにもすぐに対応して、昼夜を問わず酸を抑制することができるのです。

 

PPIのステム「ボノプラザン」と「~プラゾール」との覚え方はこれだ!

PPIステムの覚え方

 

まとめ

前回投稿でも申し上げたとおり、ピロリ菌と胃がんとの相関性は極めて高く、「ピロリ菌の撲滅運動」によって胃がんの患者が減り、日本人の平均寿命は確実に伸びるはずです。

 

しかしながら、「ピロリ菌の検査」は胃カメラへの抵抗感から広く浸透していません。尿による抗体測定、便による糞便中抗原測定が確立している訳ですから、こうした方法を(一部自治体では導入事例がありますが)健康診断のスクリーニング検査に積極的に加えるべきです。

 

そして、陽性者には胃カメラ検査を行うことなく、ボノサップをバンバン服用できる制度を検討して頂きたいものです。医療費だって胃がんになってしまったことを考慮すれば、かなり抑制できると思うのですが?

 

くすりのレビュー、国家試験の勉強に役立つYouTube動画

yakulab info 下田武先生

プロトンポンプ阻害薬:18分02秒

〜プラゾール、ボノプラザンの違い:12分40秒

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