【これだけ覚えれば】糖尿病薬の「知ったかぶりっ子」になれる!?

DPP4 内分泌代謝

今回から糖尿病薬の投稿となります。前回、「近年ようやく登場した新しい作用機序の便秘薬!」について投稿しましたが、糖尿病薬については、1990年以降、新しい薬が次々に誕生し、治療薬のバリエーションが増えました。

その反面、「どの薬が一番いいの?」「古い薬と新しい薬はどこが違うの?」という疑問を持っている方が多くおられると思います。もちろん、どの薬を使うかは、患者さん個々の状況や合併症によって異なりますので、糖尿病薬の歴史や作用機序をしっかり覚えて、上手に説明できる人になりたいものです。

今も昔も変わらないことは、「薬を使えば大丈夫!」ではなく、「食事・運動療法をうまく組み合わせないと糖尿病は克服できませんよ!」ということ。この結論だけなら誰にだって言えるのになぁ~。

 

故きを温ね新しき「クスリ」を知る

糖尿病薬については、文献も豊富で多くの説明資料を見かけますが、「知ったかぶりっ子」に必要な「クスリの歴史」「作用機序」を最小限のイメージ図にまとめてみました。あくまでも、私なりの整理なので、違和感などありましたらご容赦ください。温故知新、100年前にタイムスリップして、糖尿病薬を振り返ります。

 

糖尿病薬の歴史

糖尿病薬の歴史

 

1889年にイヌの膵臓を摘出すると糖尿病になることが発⾒され、1921年に⾎糖を下げるホルモン「インスリン」が発⾒されました。その僅か2年後には、治療薬としてインスリン製剤(商品名アイレチン)が投与され、日本初の投与は1935年のことでした。

その後、1950年代に、初の経口治療薬としてスルホニルウレア(SU)薬が登場し、1960年前後からはビグアナイド薬が使⽤されます。以降、1990年代に至る30年間は、これら3種類の治療薬にしか頼ることができませんでした。しかしながら、これらのクスリはたいへん優秀で、今でもなくてはならない存在となっています。

その後,新しい作用機序のクスリが多く登場することになります。

1990年代にはαグルコシダーゼ阻害薬チアゾリジン系薬およびグリニド系薬が相次いで登場し、2000年以降にはDPP4阻害薬GLP-1受容体作動薬(注射剤)が、2010年代にはSGLT2阻害薬が登場しました。

最新情勢では、どの分野でも同じでしょうが遺伝子領域の研究が進み、膵臓のβ細胞自体を増殖させて、インスリンの産生能力を根本から回復させる薬や治療法の研究が進んでいるそうです。

 

1型・2型糖尿病の根治治療に期待が寄せられますが、膵臓がんについても画期的な治療法が見つかって欲しいものですね。

低血糖以外の「使用上の注意」とは?

 

糖尿病薬の注意点

 

膵臓にも「働き方改革」が必要で、「膵臓自体を休ませる」という発想が重要なんです。

 

グルニド薬は作用時間が短いから良いものの、スルホニルウレア(SU)薬は「鬼軍曹」のように長い時間膵臓君に作用して、結果、膵臓君が発するインスリンが、細胞君たちに長い時間の「もぐもぐタイム」を与えてしまいます。だから、体重増加に注意が必要なんですね。

 

それにしても、理論的には、GLP-1(注射薬)・SGLT2・ビグアナイドは、「効果的な痩せ薬」になりそうで、GLP-1やSGLT2を用いたダイエット広告はネットでよく目にします。

 

しかしながら、GLP-1は注射薬だし、SGLT2は尿路感染等の副作用が心配され、いくら適応外処方とは言え、安易に痩せ薬として使用することには問題があると思います。

 

価格の安さから言えば、ビグアナイド(メトグルコ)が最適で、乳酸アシドーシスの重篤な副作用もそれほど頻繁ではないようで、「痩せ薬」としては一番いいのになあぁ~。ダメざーます!!(あっ、怒られた)

 

今回、覚える2種類の注射薬と7種類の経口糖尿病薬の作用機序

一覧表

 

インスリン(注射薬)

インスリンは、足りない量を、足りない時間帯に、的確に補充すべし1.インスリン

インスリンの分泌には、1日中ほぼ一定量が分泌される「基礎分泌」と、食事などの血糖値の上昇に応じて分泌される「追加分泌」があります。1型糖尿病では、「基礎分泌」と「追加分泌」がともに障害されています。2型糖尿病では早期から「追加分泌」が障害されており、さらに進行すると「基礎分泌」も障害されると言われています。

インスリン療法では、健康な人と同様の「基礎分泌」と「追加分泌」のパターンを再現することが理想とされ、「足りないインスリン量を、足りない時間帯に、的確に補充すること」が必要になります。一般的な患者さんは、血糖値とインスリンの分泌状況に合わせ、1~2種類のインスリンを日に1~4回打つことになります。

 

インスリン注射は、効果が現れるまでのタイミングと持続時間によって、超速効型(食事の直前・食事開始時・食事開始後)、速効型(食事30分前)、中間型、混合型、配合溶解、持効型溶解の6つに分類されます。

 

主流(覚えるべき)は、超速効型中間型(基礎分泌を補い、注射から効果までが1~3時間で、インスリンの持続時間は18~24時間)が使用されています。新しい超速効型インスリンは添加剤を調整して、より速く効くように改良されており、中間型インスリンは持続時間を維持するため懸濁剤(白く濁っている)になっています。

 

スルホニルウレア(SU)薬とグリニド薬

膵臓に直接作用するスルホニルウレア(SU)薬とグリニド薬、両者の違いは?

 

SU薬とグリ二ド薬

 

スルホニルウレア(SU)薬と「速効型インスリン分泌促進薬」と呼ばれるグリニド薬は膵臓に直接作用してインスリンを出させますので、この際、インスリン放出のしくみも覚えておきましょうね。

 

両者の違いですが、スルホニルウレア(SU)薬は、比較的長時間(半日〜1日)膵臓に作用することで、空腹時の血糖値を下げることができます。ただし、効きすぎて低血糖になる可能性が高く、特に夜間に無自覚のまま低血糖になっていることもあるので注意が必要です。また、体重増加を起こしやすいデメリットもあります。

 

一方、グリニド薬は、SU構造がなく、比較的短い時間しか作用しません。そのため、食後の血糖値を下げるのに効果があります。注射薬であるインスリン製剤と対比すれば、グリニド薬が速効型タイプのインスリン、スルホニル尿素(SU)薬が中間型のインスリンに相当しますかね。

 

ビグアナイド薬

糖新生抑制、筋肉等の糖の取組みにより、インスリンの効き目を良くするビグアナイド薬

ビグアナイド

 

ビグアナイド薬は、スルホニルウレア(SU)薬に比べ、血糖値を下げる力は弱くなりますが、非常に安価でしっかりした量を使えば、血糖コントロールも良くなります。

 

また、直接、膵臓に作用しませんので、膵臓への負荷は小さくなります。昔からある薬ですが、「膵臓を休ませる」という点では、最近の治療方針に合致したクスリです。また、血糖値を下げ、脂肪を減らすことがアンチエイジングの基本であることから「若返りの薬」としても注目されているそうです。

一方、ビグアナイド薬を語るときに避けて通れないのが「乳酸アシドーシス」の問題です。

これは何かというと、イラストの糖新生抑制のところで、「乳酸から糖を生成するのを阻害する」という効果が行き過ぎて、体内の乳酸濃度が高まってしまった状態を指します。その結果、血液が酸性に傾き、食欲不振、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢、倦怠感、けいれんなど、進行すると過呼吸、脱水、低血圧、昏睡状態などの重篤な症状を引き起こすのです。

 

α- グルコシダーゼ阻害薬

腸管での糖吸収を抑制し、食後の血糖値の上昇を緩やかにするα- グルコシダーゼ阻害薬

 

αグルコシダーゼ

 

食事で摂取された炭水化物は、α-アミラーゼにより小腸で二糖類に分解され、さらにα-グルコシダーゼ(二糖類分解酵素)により単糖類にまで分解されて吸収されます。α-グルコシダーゼ阻害薬は、この二糖類分解酵素であるα-グルコシダーゼの作用を競合的に阻害することで、糖の分解と吸収を遅らせます

また、糖尿病の患者はインスリン分泌のタイミングが遅れているため、αグルコシダーゼ阻害薬の服用により血糖上昇とインスリン分泌のタイミングが合うようになり、食後の高血糖を抑制することができます。

従って、空腹時血糖がさほど高くなく、食後に高血糖になるような症例に効果的です。単独では薬効が弱いため、他の糖尿病治療薬と併用されることが一般的です。


この薬のデメリットとしては、糖分が長く腸内にとどまることから、腹部膨満や軟便など消化器症状が出やすいこと。食事前に飲まないと効果が出ないことがあります。また、この薬自体で低血糖を起こすことは珍しいですが、低血糖の際には、ブドウ糖(単糖類)でないと効果が出ないので注意が必要です。

 

チアゾリジン系薬

肥大化した脂肪細胞を小型化して、インスリンの効き目をよくするチアゾリジン系薬

 

チアゾリジン系薬

 

肥大化した脂肪細胞を小型化することで、肥大化した脂肪細胞が出していた悪玉ホルモン(TNFaやMCP-1など)を減らします。そして、小型化された脂肪細胞が出す善玉ホルモン(アディポネクチン)の作用が高まり、肝臓や筋肉の糖代謝を改善してくれます。

 

また、脂肪肝を改善してくれる効果もあります。ただし、浮腫による体重増加が起こりやすいため、心不全がある方へは慎重に使う必要があります。

 

「糖尿病薬の歴史の表」には、ステムを記載しましたが、チアゾリジン系薬のステムが抜けています。なぜかというと、現在、このカテゴリーに属する薬はただひとつだからです。その名は、武田薬品工業の「アクトス」という薬で、過去には他社のノスカール、アバンディアといった名前の薬もあったようですが、重篤な副作用による死亡例を何件か引き起こしたため市場から撤退してしまいました。(タケダが生き残った)

 

一方、アクトスは、2009年のピーク時には全世界で年間3,962億円の売り上げを誇り、2011年にパテントが切れるまでタケダを支え続けた非常に有名な薬ですよね。
作用機序を見ても分かる通り、特に脂肪が原因の糖尿病によく用いられ、高脂血症や肥満の方に対しては非常に強い効果を発揮することから、国外でも高い評価を得ていました。パテントが切れた後には、「ピオグリタゾン」という一般名で後発品が発売されています。

 

DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬(注射薬)

「インクレチン」を制する者は、DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬(注射薬)を制す?

DPP4

「DPP-4阻害薬」と「GLP-1受容体作動薬」の作用機序を理解するには、「インクレチン」というホルモンについて理解する必要があります。

それでは問題です。同量のブドウ糖を「経口」あるいは「静脈注射」で投与すると、どちらの方がインスリンを多く出すでしょうか?

答えは、「経口投与」の方で、インスリンが数倍多く分泌されると言われています。これは、小腸にある2か所の細胞(小腸上部のK細胞と小腸下部のL細胞)が食物の通過を感知すると、膵臓に対して「インクレチン」というホルモンを使って伝令を出します。

 

伝令役は「GIP」(glucose-dependent  insulinotropic polypeptide)と「GLP-1」(glucagon-like peptide-1)といわれる2つのホルモンで、「もうすぐ血糖値が上がってくるので、インスリンを前もって出すように」と伝えるのです。このシステムは「インクレチン効果」と呼ばれ、膵臓は「食べ物の通過時」「血糖値上昇時」2回のタイミングでインスリンを放出することになり、静脈注射よりも多くのインスリンを放出するのです。

 

ただし、「GIP」「GLP-1」は、DPP4(dipeptidyl peptidase-4)という刺客(酵素)に襲われ、すぐに分解されてしまいます。GLP-1の半減期はわずか2分、GIPの半減期はわずか5分とされています。イラストでは、DPP4がまるで悪者のように描かれていますが、もし「GIP」「GLP-1」が長い時間活動すると、私たちの体はどうなるでしょうか?血糖値のピーク前にインスリンを出させるので、消化が遅れれば低血糖状態に陥ってしまいます。

 

DPP4は絶妙のタイミングで「GIP」と「GLP-1」消し去り、的確なタイミングでインスリンが出るようにしているのです。糖尿病の患者さんの中には、的確なタイミングでインスリン放出できない方がいるので、DPP-4阻害薬により、「GIP」「GLP-1」の活動時間を延長させ、インスリンの足りない時間帯と量を調整できるのです。


DPP-4阻害薬の優れた点は、GLP-1やGIPは
腸に食物が通過する時に分泌されるため、食事をしていない時(空腹時)には作用しません。すなわち、血糖値が低い時には作用しないことから低血糖を起こしにくいという利点があります。反面、1日1~2回の内服だけで便利なのですが、効果が程々であり、比較的高価なことがデメリットと言えます。

 

話は変わりますが、どうして「GLP-1」だけが製剤になり、「GIP」は製剤として開発されなかったのでしょうか?

この2つホルモンには放出される場所以外にも違いがあります。GLP-1は、インスリンの分泌を促す以外に、インスリンと逆の働きをするグルカゴンの分泌を抑制する効果もあります。一方、GIPは、インスリン分泌を促す以外に、脂肪を蓄積させる作用があるため、薬品開発のターゲットとしてはGLP-1の方が選択されました。(GLP-1受容体作動薬は、インスリンと同様、ホルモンなので注射薬で提供されます)

 

SGLT2阻害薬

余分な糖分を尿中に出すSGLT2阻害薬

 

SGLT2阻害薬

 

SGLT(sodium glucose transporter)は、ブドウ糖などの栄養分を細胞内に取り込むタンパク質の一種ので、体内のさまざまな場所に存在していますが、SGLT2に限っては、腎臓の近位尿細管に限定的に存在しているのが特徴です。

 

SGLT2阻害薬は、糸球体の近位尿細管での糖の再吸収を抑制し、尿に糖を出すことで血糖を下げる飲み薬です。この結果、血糖が下がり、糖とともに水分も排泄されるため、尿の量が増えます。副作用としては、体重の減少と、尿に糖分が混じることで、腎・泌尿器系の感染症になりやすくなります。日本では2014年から使われるようになった比較的新しい薬です。

多くの糖尿病治療薬(α-グルコシダーゼ阻害薬以外)は、膵臓のインスリン分泌や細胞のインスリン抵抗性に作用して血糖を下げていますが、SGLT2阻害薬はインスリンと関係なく血糖を下げる薬です。従って、低血糖を起こす危険性は低いのですが、比較的高価なのがデメリットです。

 

まとめ

古い薬から新しい薬への変更
低血糖を起こしやすいインスリン製剤やスルホニルウレア(SU)薬を使用している場合、「持続血糖モニタリング」などで低血糖が見つかった患者さんの場合、DPP -4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬への変更が行われます。

 

高齢者では、血糖コントロール目標がより高い血糖値になりますので、特に、低血糖を起こしにくいDPP -4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬が選ばれます。ビグアナイド薬も高齢者では慎重投与なので、これらの薬剤への変更が行われます。

 

腎機能の低下した患者さんの場合、インスリン製剤やスルホニルウレア(SU)薬が体内に貯留しやすく、低血糖を起こしやすいので、DPP -4阻害薬、GLP-1受容体作動薬が選ばれます。

 

くすりのレビュー、国家試験の勉強に役立つYouTube動画

yakulab info 下田武先生

糖尿病治療薬①:8分24秒


糖尿病治療薬②:10分56秒

糖尿病治療薬③:9分10秒

糖尿病治療薬④:9分44秒

糖尿病治療薬⑤:7分38秒

糖尿病治療薬⑥:9分05秒

糖尿病治療薬⑦:11分48秒

糖尿病治療薬⑧:11分51秒

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