前回は、人間が獲得した豊かな想像力によって生じる錯覚について投稿しました。今回は、「俺は平均より上だ!」という優越の錯覚について投稿します。
「優越の錯覚」ってどういうこと?
「己の身の丈を知り、身の丈に応じた生活をしろ!」とよく言われますが、自分の「身の丈」を知るって意外と難しく、人間誰もが自分の性格や能力を過大に評価する習性があるそうです。
心理学の世界では、この習性は健康な心の証であり、健常な人は、「自分は他人より優れている」と錯覚して暮らしていることが昔から知られていました。
特に、知能、性格、食生活などについては、多くの人が「自分は平均よりは上だ」と思ってしまうのですが、統計的に、大多数が平均を上回ることはあり得えないのです。
心理学者は、人間は、他人より優れていると錯覚することで、自分の可能性を信じて未来への希望や目標に向かうことができると説いています。一方、気分が落ち込んだ状態では、自分の身の丈を過少に評価してしまい、自信喪失に繋がると考えています。
また、人類学者は、「自分は平均より優れている」という錯覚は人間特有の思考パターンであり、優越の錯覚が、社会全体(集団)の繁栄や人類の進化に都合よく働いてきたと考えています。
「適度な優越感」のお陰で人類は平和に暮らせるの?
優越の錯覚が人間に存在することは、古くはギリシャのソクラテスの時代から知られていたそうです。しかしながら、哲学、心理学、人類学、医療分野における多くの学者たちは、なぜ人間に優越の錯覚が生じ、その思考が脳のどこの領域で発生しているかを説明することができませんでした。
「自分は平均より優れている」という思考パターンは、生まれつき人間に備わった能力なので、言語や記憶と同様、脳のどこかの場所が活性化して錯覚を起こしているはずなんですがね~。
脳の損傷場所によって、言葉が話せない、記憶できない、判断することができないといった様々な症状が現れてきます。言語や記憶の領域については、脳の損傷部位と能力の喪失状況から比較的早期に特定できたようですが、優越の錯覚が生じる領域は、能力の喪失という概念もなく、長い間、解明されませんでした。
え~、「優越の錯覚」の脳内メカニズムが解明されてたってホント?
これまで、「俺は平均より上だ!」という優越の錯覚が、心の健康、社会の繁栄、人類の進化に中心的役割を果たしてきたことを説明してきましたが、2013年、放射線医学総合研究所の山田真希子先生が、優越の錯覚は、言語や記憶と同様、脳内の特定領域に埋め込まれているという研究発表を行いました。
先生は、脳のどの部分が活動しているかを調べるfMRIと、神経伝達物質の動態を調べるPETを組み合わせて、「優越の錯覚」を分子レベルで解明しました。
fMRI(機能的核磁気共鳴画像法)
→脳内の血中ヘモグロビンの流れ込みをMRI信号で捉え、脳の活動場所を画像化した。
PET(ポジトロン断層撮像法)
→陽電子を放出する放射性同位元素でドーパミンD2受容体を標識し、ドーパミン受容体の密度を画像化した。
ん~、研究結果は、ちょっち難しいので、簡単な図にしときましたよ。
線条体と前部帯状回(前頭葉)は、行動や認知を制御する「脳内の制御機構」で、脳内機序を抑制します。従って、これら2つの機能的結合が弱いと、制御する働きが弱いため「優越の錯覚」がプラス方向に向かいます。逆に、2つの機能的結合が強いと制御する働きが強いために「優越の錯覚」が抑えられるのです。
今回の研究によって、抑うつの指標である「絶望感が強い」ほど「優越の錯覚」が低くなることが解明されました。そのメカニズムは、線条体のドーパミン受容体密度が低下し、線条体と前部帯状回(前頭葉)の機能的結合が強まり、結果、脳内機序が抑制的に働くことが分かったのでした。
新型うつ病に代表されるように、うつ状態は多様な原因により誘発され、その症状も多様であるため、診断や治療が一辺倒ではいかないのが現状のようです。fMRIとPETを組み合わせた脳内機序の解明は、診断技術の発展に極めて重要であり、このようなアプローチが、新たな治療や治療薬の創出につながると思われます。
そういえば、fMRIって言葉、最近よく耳にするよな~。MRIの前の「f」は、機能的と言う意味の「functional」ですから覚えておきましょうね。それにしても、お隣の国のS国家主席って、「優越の錯覚」が暴走してしまい、ヤバイ状況に突き進んでいくのでしょうね。クワバラ、クワバラ。
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