え~、アノ薬の名前って「ロシア軍を征伐する」という意味だったの?

怒り 消化器科

前回は「胃のクスリ」について投稿しましたが、今回は「腸のクスリ」のお話しです。

私たちにとって「正露丸」はたいへん身近なクスリですが、その歴史はナント100年以上も昔に遡ります。さらに、主成分である木(もく)クレオソートは紀元前の古代エジプト時代からミイラの保存に使われていたそうです。

 

今求められるのは「正露丸」ではなく「征露丸」⁉

「正露丸」の前身は「忠勇征露丸」というクスリで、1902年(明治35年)に中島佐一という人が大阪で売薬免許を取得して販売しました。名前の由来は、日露戦争で露国に勝つ(ロシア軍を征伐する)という願いを込めて、「征露丸」と名付けたそうです。

 

現在、ロシアによるウクライナ侵攻は、世界中の人から激しい怒りや反感を買っています。今、この時期だからこそ、「征露丸」という名の復刻版をつくり、世界に発信すれば、強いメッセージになると思うのですが?

 

怒り

 

1949年(昭和24年)、「征露丸」の看板を下ろし「正露丸」に名前を変えましたが、その当時は日本が戦後の混乱期をようやく脱した時期でした。湯川秀樹博士が日本人初のノーベル賞を受賞するなど、日本の国際的な地位が向上する中で、「ロシアを征する」という意味はマズかろうということで「征」を「正」に改め「正露丸」となったのでした。当時の正露丸には、現在と異なる生薬が入っていたそうですが、独特のニオイは今も昔も変わっていないようです。

 

 

名称変更

 

また、お馴染みの『ラッパのマーク』は、「正露丸」が軍用薬として使われていたことから、軍用ラッパをモチーフに図案化し、昭和48年に商標登録されました。コマーシャルで流れていたラッパのメロディは、誰もが口ずさめる優しいメロディですが、どうも「食事を知らせる合図」だったようで、突撃を促すものではありません。

 

映画「ハッピーフライト」では、「正露丸の瓶」が機内に転がり、蓋がはずれてクスリが飛び出すシーンがありました。日本人ならあのニオイを瞬時に想像できて、「これはヤバイことになるぞ」と推測できますが、多分、外国の方にはあのヤバさは伝わらないと思います。

 

 

ハッピーフライト

 

正露丸は、「名前の由来」といい、「ラッパのメロディ」といい、「独特なニオイ」といい、クスリとしての価値だけでなく、歴史的・文化的な価値も秘めた不思議なクスリなのです。

 

虫歯にも、アニサキスにも効く?不思議なクスリ「正露丸」

正露丸の主成分である木(もく)クレオソートは、ブナ、マツなどの原木を乾留して得られる木タールを精製したもので、以前の日本薬局方には「クレオソート」として収載されていました。

 

ところが、古くから電柱や鉄道のまくら木の防腐・防虫剤として使われていたクレオソート油(石炭クレオソート)と誤解を招くことがあるため、木(もく)クレオソートに名称変更した経緯があります。

クレオソート違い

一時、「正露丸は危険で、発がん性があるのでは?」という話題が浮上したことがありましたが、これは発がん性のある石炭クレオソートと混同されたからと言われています。

 

もちろん、正露丸には発がん性はありませんが、大量摂取で腸に損傷を受けたという報告がありますので服用量には注意が必要です。何よりも服用前に「下痢のタイプ」を客観視していただき、特に、食中毒や感染症による急性の下痢にはむやみに使わないことが大切です。

 

正露丸の主成分である木(もく)クレオソートは、食品の防腐剤として使用された経緯から、その殺菌作用でお腹の悪い菌を殺し、お腹の調子を整えると考えられていました。しかしながら、最近の研究では木(もく)クレオソートは胃で大部分が吸収されてしまい、腸に届くのはごく微量となり、腸内細菌を大量には殺傷できないことが解ってきました。

 

正露丸には、木(もく)クレオソートの他に、「アセンヤク」「オウバク」「カンゾウ」「チンピ」が含まれており、これらの生薬の組み合わせによって、過剰な蠕動運動を正常に戻し、腸内の水分量を調節することで下痢や軟便に効果があると考えられています。

 

また、正露丸の製造販売元である大幸薬品は「正露丸はアニサキスを殺す世界初の特効薬である!」と期待してアニサキスの研究に取り組んでいます。

 

研究論文

 

研究結果によると、正露丸(通常服用量)を溶かした液にアニサキスを30分間浸すと、ほぼ全てのアニサキスが運動を停止し、24時間後には死滅したことが確認されました。

 

また、胃と同じ濃度のペプシン液に浸すと、24時間以内にアニサキスが分解するという結果から、「胃壁で暴れるアニサキスからの激痛を正露丸で和らげ、その後、消化酵素でアニサキスを溶かしてしまう」といったメカニズムに期待しているようです。木(もく)クレオソートの大部分が胃で吸収されることを勘案すれば、願ったり叶ったりの結果になるかも知れません。

 

ただし、胃アニサキス症と診断される場合、アニサキスが組織に直接侵入するのではなく、3型アレルギー反応による場合が多くなっています。この場合、再度侵入したアニサキスが抗原にとなり、胃局所に激しい痛みを誘発するⅢ型アレルギーや、蕁麻疹やアナフィラキシーショックなどのⅠ型アレルギーを起こすことがあります。

 

現行の治療は、内視鏡でアニサキスの除去したり、薬としてはPPIやH2ブロッカーなどの制酸剤の内服、蕁麻疹などのアレルギー症状があれば抗アレルギー薬を内服しますが、いつしか「正露丸」が加わる日は来るのでしょうか?

 

まとめ

正露丸の効能には、「軟便、下痢、食あたり、水あたり、はき下し、くだり腹、消化不良による下痢、むし歯痛」と書いてあり、最後に書いてある「むし歯痛」には歯に詰めて用います。ロキソニンなどの痛み止めより早く痛みを解消できるという経験談もありますが、私は使ったことがありません。

 

当然、詰めた正露丸は唾液と混ざって口の中がまずくなるし、ニオイも鼻に抜けてスゴイことになりそうです。治療効果はありませんので、一時的に痛みが治まっても、なるべく早く歯科治療を受けるように強く促さなければなりません。

 

冒頭に述べたとおり、正露丸は歴史のある不思議なクスリです。今後、効能に「アニサキス症」も追記できれば、益々商品価値が高まり、不滅のクスリになると思います。

 

「正露丸」の他にも、「キンカン」「今治水」「たこの吸出し」「サロンパス」「龍角散」「仁丹」など、昔からある化石のようなクスリがありますが、どれも服用しなくても特有のニオイを想像することができます。ロングセラーで息の長い商品になるには、ニオイって大切なんだなぁ~。

 

 

くすりのレビュー、国家試験の勉強に役立つYouTube動画

yakulab info 下田武先生
瀉下薬、止瀉薬①(瀉下薬):14分03秒

瀉下薬、止瀉薬②(止瀉薬):8分45秒

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