実際にあったキョワーイ話ですが、ある高齢の患者が黒色便を理由に来院しました。過去に何度も胃からの出血をくり返し、その都度、難治性胃潰瘍として止血処置をうけ,ピロリ菌の除菌も行いました。
詳しい問診の結果、この患者は腰痛持ちで,半年近くも背中から腰にかけて大量の(市販の)湿布薬を貼っており、毎日貼り替えるのが日課だったとか。当然、湿布薬に含まれるNSAIDsによる難治性胃潰瘍が疑われたため治療方針が変更されたそうです。
こうしたケースは稀にあるそうですが,何といっても「市販の湿布薬は安全だ」と過信したり、お薬手帳に記載されず医師に伝わらないことが問題の引き金になっていると思われます。
手軽に貼れる湿布薬は日本人なら誰もが知るところですが、日本製品の「貼り心地」や「使い勝手の良さ」は世界中に知れ渡り、ナント、5年連続世界シェアトップ(2021年5月現在)で「市販薬界の主役」になっています。今回は市販の湿布薬のアレコレについて投稿します。
まずは湿布薬(外用鎮痛薬)の基本を押さえましょう
「パップ剤」「テープ剤」「スプレー・塗り薬」どれを選ぶ?
「パップ剤」の語源は「ドロドロしたもの」であり,含まれている水分が皮膚表面の温度を若干下げてくれます。ただし、本体の重さによって剝がれやすいので、背中や肩の上などあまり動かさない場所に適しています。
「テープ剤」は薄くて粘着力も強いので、関節などよく動かす場所に適しています。ただし、皮膚への刺激が強いのでカブレに注意が必要です。
「スプレー・ローションタイプのもの」は、薬液が透明なので見た目を気にせずに使えます。ただし、1日に何回も塗り替えたり、手を洗うのが面倒です。
「温湿布タイプ」と「冷湿布タイプ」どう使い分ければいいの?
結論から言えば、「気持ちが良いと感じる方を貼る」です。 理由は どちらの湿布も患部を直接温めたり冷やす効果は無いからです。「温湿布タイプ」にはトウガラシ成分「カプサイシン」を配合してポカポカ感を、「冷湿布タイプ」には「メントール」「サリチル酸メチル」「ハッカ油」などを配合してヒンヤリ感を演出します。
こうした感覚は脳に送られ、脳が痛みを感じにくくしているだけで、実際には皮膚や筋肉の温度になんら変化を与えていません。
従って、急性期の捻挫や打撲には、すぐに冷湿布を貼るのではなく、氷を入れた袋や水道水で冷やすことが大切です。また、冷えると痛くなる慢性の腰痛・肩こりには、温湿布でなく使い捨てカイロで温めた方が効果的な場合があります。
湿布剤を選択する上での「その他の注意事項」は?
湿布剤を使う際に留意すべく事項は、「年齢制限」「妊婦」「光過敏症」「アスピリン喘息」への注意です。
メーカーによって微妙な線引きがありますので、それらを紹介します。
鎮痛効果の番付と顔見世、「年齢制限」について
各社とも大物俳優やスポーツ選手を起用して頑張っていますが、ボルタレンについては、真矢みきさんや大谷亮平さんという微妙な俳優を起用しています。外資(グラクソ・スミスクライン社)ならではのアプローチなのでしょうか?(ここは「キムタク」クラスをガツンと当てんとね?)
①横綱(強い成分)は、ロキソニンS(ロキソプロフェン)とフェイタスZα・ボルタレン(ジクロフェナクナトリウム)の3者は、一日1回の貼り替えでOKです。フェイタス5.0(フェルビナク)は、1日2回の貼り替えとなるため、3者より下のランクとなります。
②大関(やや強い)のクラスは、市販薬はあるもののモーラスなどの処方薬がメインとなります。そのため派手な宣伝はありません。
ロコアテープ(エスフルルビプロフェン)は、フルルビプロフェンの光学異性体(S体)で高い吸収力が特徴です。従って、飲み薬(NSAIDs)と併用禁忌、貼るのは一日二枚までとなっています。強力なヤツが現れたせいか、フルルビプロフェン系の湿布薬は姿を消しつつあります。
③関脇(強い)のバンテリン(インドメタシン)ですが、何で興和さんが大谷翔平まで擁立して頑張っているかには理由があります。同社は、1980年に世界で初めてインドメタシンを皮膚から患部に直接浸透させる技術を開発しました。そのため、「塗るタイプ」のバンテリンコーワ液αやクリーミィーゲルαは、NSAIDsながら11歳(小4)以上で使える商品となり、「他社の塗るタイプ(15歳(中3)以上)」をリードしています。
ところが「貼るタイプ」では不思議なことが起こっています。「貼るタイプ」のバンテリンコーワパットEXは15歳以上でしか使えないのに、久光製薬のサロンパスEX(インドメタシン配合)が11歳以上でも使えるのです。どうしたパイオニア⁉ 何で興和はバンテリンコーワパットEXを11歳以上で使えるようにしないのかなぁ~?
④小結(弱くはない)のサリチル酸系は、年齢制限なしに使える優しい湿布薬です。ニノの笑顔とキャラは、多くの消費者に安心感を与えているのでしょうか?
以上、「年齢制限」について長々申し上げましたが、こんなマニアックな話を一般消費者が知っている訳がありません。ドラッグストアーで父ちゃんが適当に買ってきた湿布薬を子供にも使いまわしている事例は十分予想されます。販売の現場(私がよく行くドラッグストアー)では、尋ねれば答えてくれるが、尋ねなければ黙ってレジを通る…。まあ~、しぁないか?
でも妊婦さんは知ってて欲しい!
湿布薬のほとんどは、NSAIDs配合で「プロスタグランジン」の産生を抑えることで鎮痛効果を発揮します。
しかし、妊娠後期の赤ちゃんにとって、プロスタグランジンはとても重要な働きをしています。なんと、お腹の赤ちゃんの動脈を広げて、血液がスムーズに循環する手助けをしているのです。
NSAIDsがプロスタグランジンをブロックすると、動脈が狭くなってしまい、本来心臓に戻るはずの血液が肺に多く流れ込み、「肺高血圧症」の原因になることがあるのです。そのため、妊娠後期でのNSAIDs入り湿布薬の使用が禁忌となりました。かと言って、痛みを我慢することがストレスになるので、必ず担当医と相談するように伝えましょう。
光線過敏症って何やねん?
湿布の刺激で、「貼った場所がカブレたよ~」という話はよく聞きますが、それ以外で起こるカブレがあります。ケトプロフェンやジクロフェナクナトリウムの湿布薬で起こりやすくなる「光線過敏症」というもので、湿布を貼っていた部分に紫外線が当たると夏の日焼けのような状態になり、痒くなったり、水ぶくれができたりします。
予防は貼った場所に紫外線が当たらないようにすることで、長袖の服やサポーターで紫外線を避けることが効果的です。ただ厄介なことに、皮膚に成分が残存することで、湿布を剥がした後にも注意が必要になります。発症した場合は、1ヶ月程度紫外線を避ける必要があります。
湿布薬でも「アスピリン喘息」になるの?
「アスピリン喘息」は頭にアスピリンが付いているからと言って、アスピリンだけに起こる過剰反応ではなく,ほぼ全てのNSAIDsで誘発されるアレルギー反応と言われています。
しかしながら、NSAIDsの仲間でも、COX-1阻害作用が強いインドメタシンやアスピリンの方が重症化し易い、坐薬や注射の方が急激な発作を招きやすい、長時間作用型NSAIDsの方が発作時間を長引かせるという特徴があり、アスピリン喘息に対する各NSAIDsのリスク評価はかなり難しいようです。
例えば、ロキソプロフェンの添付文書には、アスピリン喘息のある患者には「禁忌」、(普通の)喘息患者には「慎重投与」となっており、追加の注意事項で「(普通の)喘息患者でも約10%はアスピリン喘息患者がいるので注意」と、どうすれゃいいねん‼的なことが書いてあります。
じゃ~、COX-2選択的阻害薬のセレコキシブ(セレコックス)を成分とする湿布薬を開発しろよ!と声が挙がりそうですが、セレコキシブの副作用で最も多いのが皮膚症状ということで、スティーブンス・ジョンソン症候群や多形浸出紅斑など重篤な報告もあるそうです。これゃ~手を出しにくいなぁ~
結局、現状では、アスピリン喘息の既往歴を持つ人には「サリチル酸メチル」「サリチル酸グリコール」入りの湿布しか勧められません。頼んだぞ、サロンパスのニノ君‼
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